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2019.03.15どうしてそんなに揉めているの?伊藤忠がデサント株式をTOBで買い増し

Summary

これまでは事業提携など蜜月関係が続いていた伊藤忠とデサント。最近は経営方針の相違を巡り、両社の関係が大きく変わりつつあるようです。伊藤忠はデサント株を買い増し、より伊藤忠の影響力を高めたい意向を持っているようですが、デサントはそれに反対しています。なぜ伊藤忠はデサントの株式を買い増したのか、経緯を解説します。

【サマリー】

  • 伊藤忠商事が「デサント株を持っている人、伊藤忠に売ってくれない?」と公募。デサントの株を買い増して、デサントへの影響力を高めようとしている
  • デサントの株価は上昇。伊藤忠の目標の倍近くの応募数が集まり、伊藤忠の保有比率は上昇
  • 両社は今後も協議を続けていくとしているが、溝は深い

もともと伊藤忠とデサントの仲は良かったが、今は両社の経営姿勢を巡って対立が起きている

 

伊藤忠とデサントは50年超の付き合い。デサントの経営危機を伊藤忠が救った過去がある

1964年
伊藤忠とデサントが米ゴルフウエア「マンシングウェア」ブランドを日本で共同販売しました。この時から、伊藤忠とデサントの関係が始まります。

1984年
デサントがマンシングウェアの過剰在庫を抱えてしまい、大幅な赤字を計上。業績不振に陥った際に、伊藤忠は役員を派遣するなどデサントを支援しています。

1998年
当時の売上高の約4割を占めていた独アディダスとのライセンスが解消となり、デサント業績が大幅に悪化。この時も伊藤忠がデサントを支援しています。

また、1994年から3代続けて伊藤忠出身者がデサントの社長を務めています。こうして、伊藤忠とデサントの関係は深まっていったと言われています。

風向きが変わったのは2011年ごろ。お互い経営方針にすれ違いが生まれ始めた

ただ、伊藤忠とデサントにはビジネスの進め方に対する方針が違う部分があったようです。デサント側は、伊藤忠は自社のビジネスを生かした事業をデサントに促すこともあったと述べています。意見の相違が顕在化したのが2011年です。当時デサントは伊藤忠から年間100億円ほどを仕入れていましたが、伊藤忠より金額を150億円に増やすよう要請があったそうです。2012年には、150億円という目標を達成するために、デサントと他社との取引の間に伊藤忠が入り、デサントが伊藤忠を通して取引を進める割合を増やすような要請もあったそうです。こうした伊藤忠の行動に対し、デサントの利益ではなく伊藤忠の利益を優先しているのでは?という不信感がデサント側に募っていったようです。

関係性が揺らいでいく中で、2013年、デサントは、伊藤忠出身の社長の退任と、デサント創業家出身の石本雅敏氏の社長就任が決まります。伊藤忠が派遣する取締役は、代表権を持たない取締役会長と非常勤の取締役のみとなってしまい、経営への影響力は低下していきました。この人事について、事前に伊藤忠側への相談や根回しはなかったそうで、伊藤忠としてもデサントに対し不信感を募らせていくことになります。

ただ、その間、デサントは韓国事業がヒットし、大きく成長を遂げます。2013年3月期と比べ、直近2019年3月期では、売上高は約1.6倍、経常利益は約1.8倍に拡大する見込みとなるほどに業績が回復しています。過去最高業績を更新し続けているデサント側には、伊藤忠への依存にこだわる理由が薄れています。

両社の溝が決定的になったのは2018年。伊藤忠は敵対的TOBの実施に踏み切る

お互いの不信が決定的になったのが2018年です。2018年6月に伊藤忠・岡藤正広会長CEOが自らデサント石本社長と会談し、事態の収拾に動いたのですが、決裂。両社の溝は決定的になりました。

石本社長の体制でデサントは韓国事業を伸ばしました。しかし、売上高の約5割を韓国事業が占める現状は、伊藤忠にとって韓国偏重でリスクが高いと映っていました。今後は2020年の夏季・東京、2022年の冬季・北京とアジアで五輪が続くことから、韓国以外でもビジネスチャンスが広がることが予想されます。そのため、伊藤忠はデサントに、中国事業の拡大など戦略の転換を強く迫ったようです。というのも、過去に需要を見誤って過剰在庫を抱えてしまった「マンシングウェア」の失敗や、アディダスブランド依存が進んだために契約失効によって大きな業績悪化を招いた失敗が、三度起きるのではないかと、伊藤忠は冷や冷やしているのです。

ところが、「この提案に対しデサントは明確な答えを示さなかった」と伊藤忠は説明しています。これを機に、伊藤忠はデサント株式を取得し、資本の論理でデサント経営陣に圧力をかける決断を下しました。そして伊藤忠は2018年夏ごろからデサント株の買い増しを始めます。

対立はさらに深まります。伊藤忠に株式がどんどん買われているのを見て、デサントは2018年8月にワコールホールディングスと包括業務提携を結びます。これも伊藤忠出身の取締役に事前に通知されていなかったようです。また、デサントはその後、ファンドと組んでMBO(経営陣による買収)を検討していると伊藤忠に伝えます。

MBOとは、経営陣が主体となって、借入やファンドなど第三者の出資によってお金を工面し、自社の株式を買い取り、非上場企業になることです。誰かに買収されるリスクを避け、投資家の声に左右されずに、中長期的な観点で企業経営を行うことができます。

伊藤忠は、デサントのMBO案に強く反対し、この案を却下します。同時に、デサントに対してTOBを行う意思を強めていきました。

伊藤忠は敵対的TOBを実施し、成功。ただし、伊藤忠に成果をもたらすかは未知数

 

伊藤忠は2019年1月31日、デサント株式の保有比率を30.44%から最大40%に引き上げるために、最大でデサント株721万株を買い付けるTOBの実施を発表しました。

デサントの株は、1月下旬ごろには1株1,800円台で取引されていました。伊藤忠は、「1株2,800円出すからぜひ伊藤忠に売って欲しい」とアナウンスしました。その結果、伊藤忠が目標としていた721万株に対して倍近くの応募があったと報道されています(TOBは3月14日に終了)。伊藤忠は約200億円を掛けて株式を買い取ることになる見通しです。日本の大手企業同士での敵対的TOBとして初の成立例となりました。

 

ただ、TOBは成功しましたが、伊藤忠にとって200億円ものお金を使う意味があったのか、その成果はこれから分かることになります。

伊藤忠は2019年3月期の純利益を約5,000億円と見込んでいます。一方、デサント純利益は65億円の計画です。今回、伊藤忠はデサント株式の40%分を保有することになったので、65億円 × 40%分 = 26億円が伊藤忠に帰属する形になります。仮にデサントが今期の利益水準をキープできたとしても、毎年26億円の利益でトータル200億円の投資を回収するためには、単純計算でも7.7年を要します。そもそも、5,000億円もある伊藤忠の利益水準からすると、26億円という利益は0.5%にしか過ぎません。約200億円の投資を上回る追加リターンを得られるのかは未知数です。

その点に関して、伊藤忠の鉢村CFOは、デサントの高い商品力や伸びしろのあるスポーツ分野という特性を挙げています。2020年の夏季・東京オリンピック・パラリンピックや2022年の冬季・北京オリンピック・パラリンピックなど、アジアではスポーツイベントが控えています。特に、中国の旺盛な需要を取り込む狙いがあるようです。

日本でも敵対的TOBが成功するケースが増え始めている

 

株式をどれだけ買うとどんな権利があるの?

株式の仕組みや上場企業の仕組みについてはこちらの記事もお読みください。

株主は、発行されている株式の何%を持っているかによって、権利が変わります。たくさん株式を保有していれば、それだけ権利も大きくなり、会社の意思決定に影響を与えることができます。

・発行済株式を100%保有していれば、基本的に全て自分で決められます。
・66.66…%(発行済株式の2/3)以上を保有していれば、株主総会における特別決議(超重要事項)についてほぼ自分の意見を通すことができます。
・50%(発行済株式の半分)超を保有していれば、株主総会における普通決議(重要事項。)についてほぼ自分の意見を通すことができます。
・33.33…%(発行済株式の1/3)以上を保有していれば、株主総会における特別決議(超重要事項)について反対し、決議を阻止することができます。

また、

・A社がB社の発行済株式を100%保有していれば、B社はA社の完全子会社と呼ばれます。
・A社がB社の発行済株式を50%以上保有していれば、B社はA社の子会社と呼ばれます。
・A社がB社の発行済株式を20~50%保有していれば、B社はA社の関連会社(持分法適用会社)

と呼ばれます。どのパターンでも、B社が上げた利益は、保有株割合に応じてA社のものとカウントされます。

伊藤忠は、約30%のデサント株を保有していましたが、これを40%まで引き上げ、デサントが株主総会で重要な意思決定を行う場合に、伊藤忠として反対し、決議を阻止する権利を持つことを目指しています。また、デサントの利益のうち40%は伊藤忠に帰属することになります。

TOBって何?

株式公開買い付けともいいます。上場企業の株式を大量に買う手段の1つです。「xxx会社の株式を、これくらいの金額で、これくらいの株数を買いたいので、株主の皆さん、売ってください」と広く株主に呼び掛けて株式を買います。買収対象企業の経営陣が賛同し、「▲▲さんがウチの株式を買いたいと言って公募しているので、皆さんぜひ売ってください」というスタンスなものを友好的TOBといいます。反対に、買収対象企業が買い付けに同意していないのに一方的に買い付けを実施するTOBを敵対的TOBといいます。どちらの場合でも、狙い通り買いたい株数を集めることができれば成功、そうでなければ失敗と言われます。

伊藤忠は、デサントの経営陣が賛同していないのにTOBを行ったので、敵対的TOBを仕掛けた、と言われています。日本で敵対的TOBが行われるのは稀です。というのも、仮に買い付けに成功しても、経営陣と株主の関係が悪いわけですから、その不仲によってビジネスが失敗するリスクがあるためです。伊藤忠とデサントは、デサントの企業価値を高めるため、今後も協議を行っていくとしていますが、両社間の溝は深く、一筋縄ではいかないのではと考えられています。

日本の敵対的TOBの歴史~過去には村上ファンドや王子製紙のケースも

ところで、敵対的TOBは日本でどれくらい発生しているのでしょうか。敵対的TOBは、ここ数年は毎年0~1、2件程度となっており、毎年50件数程度あるTOBの中でも僅少です。

国内大手企業同士の敵対的TOBは、2006年に王子製紙が北越製紙に対して仕掛けた件にまでさかのぼります。当時、製紙業界1位の王子製紙(現王子ホールディングス)が、製紙大手の北越製紙(現北越コーポレーション)に対して経営統合を目的に敵対的TOBを実施しました。北越製紙は三菱商事に新株を発行することで、王子製紙が50%以上の北越製紙の株式を買い付けることを阻止しました。

なお、過去、敵対的TOBの多くは失敗していましたが、近年は成功する例も増えています。今回、伊藤忠のデサントに対するTOBは成功に終わりました。

【主な敵対的TOB(社名は当時)】

(各種報道資料から作成)

伊藤忠とデサントの議論の争点は、デサント創業家出身の石本社長の進退となっています。石本氏が退くことになれば、次期社長の人選は伊藤忠出身者を軸に調整が進む見通しです。

現在、デサントの取締役は10人おり、そのうち石本社長を含む6人が社内出身者となっています。伊藤忠出身者と社外役員がそれぞれ2人という体制です。TOBの応募締め切り前の時点で、伊藤忠はデサントの取締役を6人に減らし、「社内出身者2名」「伊藤忠出身者2名」「社外役員2名」の体制にすることを提案していました。これが認められれば、デサント取締役会での伊藤忠の発言力を強めることができます。これに対し、デサント側は取締役を5人に減らし、デサント出身者1人と、社外役員4名の体制にする案を主張していました。デサント案は、事実上伊藤忠の影響を排除する案と言えます。

伊藤忠は、デサントとの協議が決裂しても、臨時株主総会の開催を要求し、新しい人事案を決着させる構えを見せています。取締役を決めるには、株主総会で過半数の賛成を得ることが必要です。ただ、TOBに成功した今、伊藤忠はデサント株の40%を握っていますので、あと少しの賛同者を得ることができれば、伊藤忠の案が認められる可能性が高まっています。そうなると、石本現社長は退任する可能性も示唆しています。

敵対的TOBを成功させた伊藤忠ですが、デサントとの協議については、これからが本番と言えそうです。

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